第4章:21世紀は華僑・華人が世界のキーマン?

21世紀は華僑・華人が世界のキーマン?

第1章から3章にかけて、華僑・華人とはどういう人なのか、どういった歴史を辿って来たのかについて学びました。

この第4章では、21世紀に入った現代の華僑・華人の活躍についてまとめます。

アジアをリードするエリート 華僑・華人

第3章では「老華僑」「新華僑」という言葉が意味するものの違いについて述べました。

改めて述べると、「老華僑」は日本の基準で言うと1980年ごろまでに同族や同郷のツテを頼り来日した中国人の事を指し、彼らの多くは専門スキルを活かし「三刀業」(中華料理屋・散髪屋・服の仕立屋)で生計を立てていました。

一方、「新華僑」は1980年以降に日本へ移住した中国人であり、老華僑とは違って故郷から親戚を頼って出国するのでなく、中国国内の都市で成功したエリートが新たな環境を求めて来日するケースが多く見られました。

「新華僑」には大学や修士課程などを卒業した高学歴者も多くいて、同郷組織よりも日本の大学や大学院と関係を持ち、日本企業や研究機関で職を得たり、自らビジネスを立ち上げたりしました。21世紀に躍進を続ける華僑・華人の人々も、様々な専門スキルを持っていたり、高学歴かつ知識労働に従事するなど、多様性を含んだ存在となっています。

現代の華僑・華人の広がり

現在の華僑・華人人口約6000万人のうち、70%はアジアに住んでいると言われています。1

特に東南アジアに住んでいる華僑・華人が多く、シンガポールでは国の総人口のうち50%強が華僑・華人であり、マレーシアでは20%強、タイでは10%強の華僑・華人人口があります。その他の東南アジア諸国でも総人口の1~3%が華僑・華人です。

これは、多くの華僑・華人が中国南部出身であり、歴史的に見ると中国の貧困地域の人々がASEAN地域に押し出されたことに起因しており、併せて、ASEAN地域の植民地時代に現地住民が参入しなかったビジネスに華僑・華人が参入したことが理由として考えられます。その他、アメリカ・ヨーロッパ・アフリカ・南米・日本など、華僑・華人の人々の居住・ビジネスエリアは世界中に広がっています。

ASEANにおける華僑・華人の存在感

順調な経済発展を続けている東南アジア諸国(ASEAN)。

活発な経済活動の主軸となる各国の財閥や企業は、その多くが華僑・華人企業です。

ASEANへ移住した華僑・華人は、その地で生き延びるために相互扶助的組織である「幇(パン)」といわれる結びつきを大切にし、ASEANでの華僑・華人の立場を強化するベースとしました。2

「幇(パン)」には2種類あります。

1つ目は「郷幇(きょうぱん)」と呼ばれる、出身地に基づく地縁的・血縁的集団です。血のつながりがある一族や、同じ風俗・習慣・言語を使う人々が集まって、移住先の地に共同墓地や学校、病院などを建て、お互いに助け合う仕組みを確立しました。

2つ目は「業幇(ぎょうぱん)」と呼ばれる、同業者で作る職業的連帯集団です。お互いに仕事上の便宜を与え合うなど、ビジネス面での相互協力関係を作ることで、仕事の安定を図りました。同じ地域の出身者が同業につくケースが多く、それは「郷幇」の様相とも重なります。

このような人的ネットワークに基づいて築かれたASEAN内の華僑・華人企業は、彼らの故郷である中国の政府からもその存在を重要視されています。特に、中国政府が推し進める「一帯一路構想」を実現するには、華僑・華人の活躍が重要なポイントとなるのです。

「一帯一路構想」とは

「一帯一路(いったいいちろ)構想」とは、中国の国家主席・習近平氏が2013年に提唱し、現在に至るまで推進している、アジア〜ヨーロッパ〜アフリカ大陸にまたがる巨大経済圏構想です。

中国を起点としたアジア〜中東〜アフリカ東岸〜ヨーロッパのルートを、「一帯」と呼ばれる陸路と「一路」と呼ばれる海路によって結ぶことで、エリア全体における経済的協力関係を構築するという、極めて広範囲に渡る経済構想ですが、中国国内で過剰となっている生産能力を国外へ輸出し、国内で行き詰まった経済成長を外へ広げることで国内の生産余剰問題を解消する、新たな経済戦略であると言われています。

「一帯一路構想」が提唱されたのと同時期に、中国政府は華僑・華人企業への支援策として、中国内の中央部および各地方に特別な対応窓口を設けたり、華僑・華人企業の対中投資誘致にも積極的な姿勢を見せるようになりました。具体的には、華僑・華人企業の中国進出拠点作りをしたり、華僑・華人向けの商業・産業パークとなる「僑夢苑」を全国17か所に設立し、各都市の整備されたインフラ環境、優遇策を享受できるようにしました。
さらに、2014年には「華人経済文化協力試験区」が広東省で設立され、これは華僑・華人企業との連携が国家戦略レベルに引き上げられたことを意味し、外資導入のために積極的に華僑・華人企業を活用しようとする中国政府の思惑が見て取れます。3

これらの手厚い支援は、華僑・華人企業の中国に対する高い投資意欲に応えることは勿論として、習近平国家主席が掲げる「一帯一路構想」の実現において、華僑・華人企業との連携が欠かせない重要なポイントであることを内外に示すものと考えられます。

まとめ

華僑・華人間の繋がり、華僑・華人と中国政府との繋がりがともに強固なものであることをお分かりいただけたと思います。ASEAN地域をはじめとして、「一帯一路構想」のエリアに含まれる国々の今後の動向は、日本人である我々も注意深く見ていく必要がありますね。

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  1. 『アセアンにおける華人・華人企業経営① -アセアンにおける華人・華人企業のプレゼンス、華人社会の形成と特徴点-』ニッセイ基礎研究所,2017年 ↩︎
  2. 『アセアンにおける華人・華人企業経営① -アセアンにおける華人・華人企業のプレゼンス、華人社会の形成と特徴点-』ニッセイ基礎研究所,2017年 ↩︎
  3. 高橋海媛『華人企業の動向』三井物産戦略研究所,2018年 ↩︎

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