第7章:華僑・華人の企業一覧

華僑・華人の企業一覧

第1章から6章にかけて、華僑・華人がどのような人々か、どのような文化や思想を持っているかについてまとめました。

世界各国の華僑・華人企業が展開するビジネス分野は、貿易、小売り、金融業、不動産、ITなど幅広く、世界経済および中国経済の発展に重要な役割を果たしています。

本章では、華僑・華人が率いる各国の企業に関して、ASEAN3国を中心にご紹介します。


ASEANの華僑・華人企業

華僑・華人企業の数が最も多いのは東南アジアであり(香港・マカオ・台湾の中華圏を除く)、それらは主にマレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシアの5カ国に集中しています。

業種は主に金融、小売り、レジャー、農業などの産業が多く、ハイテク関連企業は少ないようです。ハイテク事業への投資には高い技術力と膨大な資金が必要であり、くわえて東南アジアの華僑・華人企業の大部分が世代交代できておらず、ハイテク事業には慎重であるためと指摘されています。1

インドネシアの華僑・華人企業

インドネシアで最大のコングロマリット(複合企業)は、サリム・グループです。

中国福建省出身のスドノ・サリム氏によって創始された企業であり、第2次大戦中の軍事物資供給からビジネスをスタートさせました。大戦終結後、サリム氏は第2代大統領スハルトと強力な協力関係を組み、国家事業における幅広い分野にて輸入独占権を獲得し、インドネシアの経済開発を進めました。

現在のサリム・グループのコア事業は食品と小売業です。日本との繋がりもあり、例えばダスキン(ミスタードーナツ)や日清オイリオなど、日本の有名企業との合弁・提携関係を有しています。

また最近ではセイノーホールディングスとの提携により、保冷輸送のインフラ整備に着手しているようです。

タイの華僑・華人企業

タイ最大のコングロマリット、CP(チャロン・ポカパン)グループ もまた、華僑・華人企業です。

CPグループの売上高はなんとタイの国家予算の半分ほどにも及び、従業員数は全世界で30万人を超える規模です。食品、小売り、不動産、通信など幅広い分野のビジネスを展開しています。

グループの始まりは中国からバンコクへ移住した謝という一家が1921年に興した種苗販売店であり、その後は時代の流れに乗って事業を拡大させ、現在ではASEAN諸国だけでなく、中国や欧州にも事業領域を拡張しています。

日本企業のなかでは伊藤忠商事と事業提携関係であり、CPグループは伊藤忠の株式を4.9%持つ筆頭株主でもあります。

シンガポールの華僑・華人企業

シンガポールにはホンリョン・グループという華僑・華人企業があります。

1941年に中国系のクェック・ホンプン氏が創業し、第二次世界大戦の日本占領下、建築資材の販売からスタートしました。戦後、資材販売を拡大しながら不動産やホテル事業へ手を広げたのが功を奏し、現在では金融、不動産、製造などに強い、シンガポール随一のコングロマリットとしての不動の地位を保っています。

日本企業とも密接な関係を持っており、一例をいうと、三井不動産との提携によって銀座に高級ホテルをオープンさせています。

華僑・華人企業に共通するもの

世界経済をリードする存在となった華僑・華人企業ですが、各社には共通する3つのポイントがあります。

まずは「人的ネットワーク」の重視です。

他の章でも重ねて述べたポイントですが、華僑・華人の多くは移住先での「人的ネットワーク」を重視しています。それと同時に中国政府も華僑・華人企業を重要視しており、政府が掲げる「一帯一路構想」の実現のためにも、東南アジア各国の華人企業との繋がりを重視しています。

人と人の繋がり、会社と政府の繋がりの強固さによって、華僑・華人企業は揺るぎない繁栄を保っています。

2つ目のポイントは、事業を積極的に多角化させていることです。

事業の多角化とは、例えばもともと食品の販売をしていた会社が運送業に手を出し、インフラ事業も始め…というように事業をどんどん多様にしていく動きです。

華僑・華人企業の多くは、創業時の事業で得た資産を積極的に再投資し、自らの事業を拡大させているのです。

3つ目のポイントは、ファミリービジネスであるということです。

華僑・華人企業の大半は家族経営です。傘下の企業を上場させた後でもその支配権は一族の人間が握り、創業者が引退するとその子供や孫に立場を継承するのです。

血縁の繋がりを重視する華僑・華人にとっては当たり前のことなのでしょうね。

まとめ

本章では華僑・華人企業の特徴とASEANの代表的な企業3社についてまとめました。

ASEAN地域における華僑・華人企業の存在感はとても大きいため、それらの概要や動向を知ることはASEAN地域の経済、ビジネスの流れを知るために不可欠です。

日本の有名企業が華僑・華人企業と提携していることからわかる通り、日本人がASEAN内でビジネス 展開するには、華僑・華人企業と友好関係を結ぶのが非常に有用な選択肢のひとつなのです。

(参考)Digima 東南アジア(ASEAN)の経済を支配する【財閥・コングロマリット】

https://www.digima-japan.com/knowhow/world/14710.php

  1. 高橋海媛『華人企業の動向』三井物産戦略研究所 2018 ↩︎

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