第5章:華僑・華人の教え
華僑・華人の教え
第1章から第4章にかけて、華僑・華人の人々の歴史や世界への広がりについて述べました。
本章では、華僑・華人が代々大切している「教え」についてまとめたいと思います。
「教え」とはつまり、親が子供へ伝えるような、人生を生きる上で大切にすべきこと、人生をよくするための思考方法のようなイメージです。
世界中でビジネス的成功を収めてきた華僑・華人には、一本筋の通った「教え」があるのではないでしょうか。
そしてそれは、現代日本人にとっても参考に出来るものなのではないかと感じます。
日本人の目から見た華僑・華人について、近年では大城太氏が論稿や本を多く上梓されています。
本章は大城氏のインタビューや著書の内容を参考にしています。
華僑・華人はどんな人と付き合うか
移住した先の国においてビジネス的成功を収めている華僑・華人の人々。
まずは彼らの対人関係について知りましょう。
華僑・華人の子供たちは四書五経をはじめとし、故郷・中国の古典をよく学びます。
自国の古典はわれわれ日本人も学校で学びますが、日本では古典を受験やテスト対策の知識として捉えがちです。一方、華僑・華人は古典を学び、その内容を自分の人生においてどのように実践していくかを考えます。古典を読み、それを生活にどう活かせるかというところまで考えるのです。
古代中国を代表する哲学者・孔子は「益者三友、損者三友」という言葉を遺しています。
これは、「自分が交際してためになる友人には3種類の人間がおり、一方で損になる友人にも3種類いる」という意味です。
華僑・華人たちはこの教えを実生活でのコミュニケーションに当てはめて考えるため、自分が損をするような相手とは付き合わないようにしています。
「益者三友、損者三友」
孔子のいう、「益者」「損者」とは一体どういう人を指すのでしょうか?
まず「益者」とは、①正直である、②誠実である、③知恵や知識が豊富である、この3つの特徴を持つ人とされています。
①の正直であることについては、事実をそのままそっくり話したり行動したりするのではなく、誰かを傷付けないように配慮した言動が出来、かつ正直である人です。他人の立場を考えられる人と言うことですね。確かに、そういう人は信用出来ます。
また、②の誠実さには「長期的なものの見方ができる人」という意味が含まれています。ビジネスであれ、友情や恋愛であれ、誰かと長く付き合うにはお互いに誠実でないと関係が安定しません。誠実な人はそれをちゃんと自覚しているから、信用がおけるのです。
一方で「損者」とは、①楽な方向へ流されがちである、②八方美人である、③雄弁である、という特徴を持つ人です。単純な考え方を好み、誰にでも適当にいい顔をして、口ばかり達者…。自分がそうなっていないか?と考えると、少々耳が痛い言葉かもしれません。
「損者とは付き合わず、益者とは友好的な関係を築こう」「損者ではなく、益者になろう」。
これが華僑・華人が実践している古典からの”教え”です。
我々の耳に慣れた表現で言うと、「類は友を呼ぶ」ですね。自分自身が「益者」になれば、自然と周りに「益者」が集まり、ともに順調で安定した人生を送ることが出来るのです。
華僑・華人的コミュニケーション
華僑・華人にはコミュニケーションの面でも特徴があります。
彼らは意図的に「ノンバーバルコミュニケーション」を使い分けます。
ノンバーバルコミュニケーションとは、非言語コミュニケーションのこと。すなわち、表情や声色、ジェスチャーなど言葉以外で自分の気持ちを表現する手段を言います。
時にはオーバーすぎるほど明るいリアクションをして場を盛り上げたり、逆にビジネスの場で相手より優位に立ちたい場合はわざと無反応な態度を取って相手を翻弄したり。ついつい場の空気を読んで行動してしまう日本人にとっては手ごわい相手でしょうね。
華僑・華人は言葉だけでなく、ノンバーバルコミュニケーションによって相手との関係を友好なものにしたり、自分の主張をしっかりと貫けるようにするのです。
まとめ
本章は、「華僑・華人の教え」と題して、対人コミュニケーションに関する彼らの考え方についてまとめました。
良い人と付き合いたいならばまず自分が良い人になる、非言語コミュニケーションでも自分の感情を豊かに表現できるようにする、などは日本人の普段の生活にもすぐ取り入れられるのではないでしょうか。ぜひ皆さんも実践してみてください。